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アンバランスなテニスプレーヤー [スポーツ科学情報]

IO_46466_original1-2.jpgITF(国際テニス連盟)が発行しているCoaching & Sport Science Reviewから,注目記事を翻訳してお届けします.

今回はこちら.

アンバランスなテニスプレーヤー 
The Unbalanced Tennis Player

テニスは同じ動きを繰り返し行うことが求められます。同じ動きを繰り返し行う中で選手はアンバランスな筋力のつきかたをし、柔軟性に不均衡をもたらします。そこから引き起こされる故障を予防するために必要なトレーニング知識を述べた論文です。

(文責:スポーツ科学情報部会 高橋)

Coaching & Sport Science Review - Issue 37, December 2005

アンバランスなテニスプレーヤー
The Unbalanced Tennis Player

Scott Riewald (USTA Player Development)
Todd Ellenbecker (Chairman, USTA Sport Science Committee)

<はじめに>
テニスは繰り返しのゲームです。トーナメントを通して数百のサーブを打ち、練習中では数百キロを走ります。このようにテニスにおいては、基本的な動きが繰り返し、繰り返し行われます。そのような膨大な量の繰り返しの練習からは、無理な動きを修正しなければ怪我やパフォーマンスの低下につながるような、筋力や柔軟性の不均衡のもたらされ方を容易に見ることができます。

幾つかの筋バランスの喪失は、テニスプレーヤーにとって想定内のことです。例えば、テニスプレーヤーにとって、利き腕側が強くなるのは自然です。しかし、ある関節に関係して機能しているいくつかの筋肉群のうち、特定の筋肉群だけが強かったらどうなるでしょう?また、もし柔軟性が制限されたらどうなるでしょうか?これらのタイプの不均衡は、しばしば故障の心配の原因になります。多くの事例からは、これらの不均衡はパフォーマンスを阻害し(または)障害を引き起こします。

身体のすべての部分はキネティック・チェイン(運動連鎖)としてつながっています。例えば、両脚で発生した筋力とパワーは、脚部から体幹を通ってラケット・ヘッドのスピードを生み出すことに使われます。筋力や柔軟性の制限によって引き起こされた弱い連鎖、また連鎖の途切れは、身体全体の筋肉に異常な負荷がかかることによって障害を引き起こします。

<ハイ・パフォーマンス・プロフィール>
全米テニス協会のスポーツ科学委員会は、テニス選手に見られる顕著な筋肉のアンバランスさを調べるために、「ハイ・パフォーマンス・プロフィール」と呼ばれる一連のテストを作り上げてきました。これらのテストは、障害が起こる以前に予防し、適切な筋力とコンディション・プログラムを作成するための情報提供をするためにデザインされています。以下に、テニス選手にとってのアンバランスさと取り組みの方法を述べます。

<脚筋力>
脚の筋力はすべてのテニス選手に必要ですが、典型的な選手であれば、下肢に向かって筋力と柔軟性が不足していることに気づくでしょう。筋力と柔軟性の不足はサーブに見受けられます。Kibler (2005)は、サーブ時の身体全体の筋活動を測定し、筋活動における二つの異なるパターンを見つけました。プレーヤーを対象とした実験において、あるグループは両脚を使ってボールに力を伝え、サーブに必要なパワーの多くを生じさせていました。脚力をそれほど使わなかった二つ目のグループは、脚力の代わりに腹筋群の筋肉を使って「身体をやりくり」していました。両脚を使わないことは、筋力的に不足していることが考えられますが、これはパフォーマンスの限界(例:サービスにおけるスピード不足)を意味し、障害(例:腹筋群の筋違い)を引き起こす原因となります。

USTA(全米テニス協会)によって行われたテストからは、非常に多くのトップ・ジュニア選手が、脚力不足から片足のスクワットが正しくできないことがわかりました。それは前述の結果を支持しています。

下半身の筋力不足を示す選手は、臀筋群や大腿四頭筋群強化を目的とした積極的な筋力向上プログラムに取り組むべきです。こういった選手は、どのようなパワー・トレーニングに取り組むにせよ、最初に基礎筋力向上に努めなければなりません。

<下肢の柔軟性>
下腿の柔軟性は、効率的な関節の動きや各関節を保護するために必要です。テニスプレーヤーは特に以下の部位における柔軟性を向上させる必要があります。
  • 骨盤前部の屈筋群
これらの筋肉は走る場合に歩幅を確保するのに必要だけではありません。Vad and Gebeh (2003)が発見したように、臀部の柔軟性不足が腰の痛みに関連しています。
  • 外旋筋群
股関節を回旋する能力は、事実上すべてのショットにおいてパワーを生み出し、下半身の動きを上半身に結びつけるという意味で重要です。
  • ハムストリングスと大腿四頭筋
これらの筋肉はそれぞれ太ももの後ろと前に位置しており、効率的に動いたり、最大筋力を維持し続けたり、脚部や腰部の障害を予防するために必要です。
  • 肩の筋力
テニス選手にとって、肩の内旋筋群である肩甲下筋(ローテータ・カフの一つ)、背中から腰にかけての広背筋、そして胸にある大胸筋は目立って強いものです。サーブやフォアハンドを打つ数、そして各ショットで内旋を使うことを考えれば、単にテニスをするだけで、なぜこれらの筋肉群が特別に強くなるか簡単にわかります。けれども内旋筋群に比べて、肩を外旋する筋肉群は弱く(Ellenbecher and Roetert, 2003)、疲労もより早い(Ellenbecher and Roetert, 1999)ため、筋肉のアンバランスを生み出し、肩を障害のリスクにさらすことになります。強い外旋筋群は肩関節を適切に安定させるのに必要だけでなく、サーブやフォアハンドを打った後に腕を減速するために、伸張的に筋収縮(筋繊維が収縮しながら伸びること)されなければなりません。結果として、外旋筋群は、障害や破壊に結びつきやすいのです。

さらに、肩はボール状の部分とくぼみ状の部分からのみ成り立っているだけの関節ではなく、肩甲骨も肩の一部であるということを認識するのは重要です。両肩甲骨の動きをコントロールする体幹や背中上部位の筋肉群は、肩全体の機能を確保するためにローテータ・カフ筋肉群と一緒に働きます。肩甲骨のコントロールをつかさどる筋肉群の弱い部分は、どのようにローテータ・カフ筋肉群が機能するのかといったことや、肩部位に見られる障害のタイプや障害の頻度に直接影響するでしょう。

選手が手に重りを持ちながら、肩甲骨面に沿って身体の横で手を上下する簡単なテストによって、肩甲骨がウイングしているかどうかが現れます。このウイングは肩甲骨が背表面を飛び出し、肩甲骨をコントロールする筋肉群が弱いことを示しています。これは腕を下げたとき、典型的に認められます。

外旋筋群や肩甲骨を安定させる筋肉群を含む肩まわりの筋肉の強化は、外旋や何かを引っ張るタイプのエクササイズによって成されます。選手はこれらのエクササイズを行うときに、背上部において両肩甲骨を引き寄せた状態で行うべきです。

<肩の柔軟性>
肩の筋力に加えて、利き腕において障害予防のための適度な柔軟性が必要です。しかし、テニス選手は常に利き腕側に総合的な可動域不足があり、非利き腕側158.3度に対して利き腕側149.1度となっています(Ellenbecker et. al., 2002)。この違いは、利き腕側の内旋が制限されていることが大きな理由であり、非利き腕側56.3度に対して利き腕側45.4度となっています。

別の研究ではKibler et. al. (2002) とRoetert et. al. (2000)が、テニス歴が長いと内旋角度が減少することを見つけました。つまり、テニスを長く続ければ続けるほど、肩の内旋は制限を受け、この柔軟性欠如は技術的課題や障害をもたらす可能性があります。そのため、すべての選手にとって肩の内旋域を向上させたり、障害予防のためにストレッチを常に行ったりすることはとても重要です。

<コア(身体の中心部分)の力>
体幹とコアにおけるバランスの必要性はどうでしょうか?もし、道を歩いている一般的な人達を選んで、その人達のコアの力を測定した場合、腰部は腹部に比べて若干強いことがわかるでしょう。これは強い背筋によって、猫背にならないように正しい姿勢を保つことを助けています。しかし、テニス選手はこれにあてはまりません。

Roetert と彼の同僚達(1996)は、トップ・ジュニア選手において、体幹を屈曲させる腹筋の方が背筋よりも強いことを発見しました。これらの選手は、サーブを打つたびに腹筋群を体幹の屈曲に用いているという事実があるようです。適切な運動連鎖では、強化されたコアは下半身と上半身の連携を強めるので、腹筋と背筋のバランスは特に重要です。また、腰部の筋力不足は、テニスにおいて最も頻度の高い腰部障害に影響するかもしれないので、対策を講じることは重要です。将来的に障害を予防するには、選手はコア周囲を強化し、特に腰部の筋力向上に注意を払うべきです。

<引用文献> 省略


(岩月 俊二 訳)